システムは魔法のツールではない…
そんなことを改めて実感した出来事がありました。
最近、HRテックや人事系システムの普及で、バックオフィスのDX化が一気に進んでいます。
勤怠管理、給与計算、社会保険手続きなど、これまで人が手作業で行っていた業務が、自動化されるようになりました。
もちろん、システム導入自体は非常に有効ですし、合理化のために積極的に活用すべきだと思います。
ただ一方で、「システムを入れれば、すべて自動化され、誰でも簡単に設定・運用できる」と考えている企業も少なくありません。
実際、「DX化したから、給与計算代行は不要になった」「税理士や社労士はいらなくなる」という声を聞くこともあります。
しかし、本当にそうでしょうか。
給与担当者が労働法や社会保険制度に精通していれば問題ありません。
ただ、法律知識が十分でない場合、システムが“自動では対応してくれない部分”に気づけず、知らないうちに誤った計算を続けている可能性があります。

それを痛感した事例がありました。
ある企業へ、別件の監査支援で訪問した際のことです。
賃金台帳を確認していると、どうも残業単価が合いません。
企業担当者は、
「システム導入時にSEが設定していますし、勤怠とも連携して自動計算なので、間違うはずがありません」
と強く説明されました。
しかし、実際には間違っていました。
原因を調べると、基本給が画面上で手修正されていたのです。
ところが、そのシステムは、基本給を修正しても残業単価が自動再計算されない仕様でした。
他の項目――住民税や雇用保険料などは、その画面内で再計算されていました。
しかし、なぜか残業単価だけは変更前のまま据え置きになっていたのです。
ベンダーへ確認すると、
「基本給は本来、別画面で設定する仕様であり、そのマスターデータを基に残業単価を算出しています。明細画面でスポット修正した場合は、自動反映されません」
との回答でした。
つまり、システムとしては“仕様通り”。
しかし、現場では「基本給を変えたら、残業単価も変わるはず」という労基法上の知識がなければ、誤りに気づけません。
どの手当を割増賃金の基礎に含めるのか。
どの項目が社会保険の算定対象になるのか。
これは、社労士試験でも労基法の初期に学ぶ重要論点であり、実務上の基本知識です。
ところが、システムはそこまで判断してくれません。
本来であれば、
- 基本給が別管理なら、明細画面では修正できない仕様にする
- 修正時にワーニングを表示する
- 残業単価へ影響する旨をアラート表示する
などの設計が望ましいはずです。
おそらく、勤怠システムは歴史あるベンダーでも、給与機能は比較的新しい製品だったため、こうした“制度知識前提”の落とし穴が残っていたのでしょう。
そして同じミスをしている企業は、他にも少なくないと思います。
今回、改めて感じたのは、
「法律知識」と「システム知識」の両方を持つ人材の価値は、まだまだ高い
ということです。
AIやシステムは非常に便利です。
ただ、それを正しく設定し、運用し、異常に気づけるのは、結局、人です。
特に人事・労務分野は、法律改正も多く、例外処理も複雑です。
だからこそ、社労士として制度を理解し、さらにシステムにも明るい人材は、これからもしばらく必要とされ続ける…
そんなことを実感した出来事でした
☆御礼☆
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