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BCPと防災:想定外を想定内にする経営者の責任

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危機管理の専門家でも思う「まさか地元が」

社会保険労務士として、また防災士として、日頃から企業の危機管理やBCP(事業継続計画)策定に携わっている私でも、今回の東京の大雨に驚かされました。

日中は猛暑で雨の気配すらなかったのに、夕方になって一変。超大雨が降り出し、川もない自宅エリアで内水氾濫が発生。駅や商店街が浸水し、電車も運行停止となりました。ビル内にいたため直接的な私自身は被害は免れ、自宅も対策はしていたので影響なしとは言え、「まさか地元が被災するとは」と、危機管理の専門家である私自身も実感したのです。

なぜ「自分ごと」にならないのか?

日本全国で想定を超える災害が頻発しているにも関わらず、多くの人が、多くの企業が「自分ごと」「自社ごと」として捉えていません。この現象には、いくつかの心理的要因があります。

正常化バイアスの罠

人間には「自分だけは大丈夫」と思いたがる正常化バイアスが働きます。災害のニュースを見ても「どこか遠い場所の出来事」として処理してしまうのです。

経験の乏しさ

特に経営者の多くは、深刻な災害を直接体験していないため、リアリティを持って捉えることができません。想像力だけでは、真剣な対策に結びつかないのが実情です。

傘の確率と地震の確率

明日の雨の確率が80%なら、傘を持参します。では、なぜ南海トラフ地震の発生確率が30年以内に80%と言われているのに、BCP策定に本腰を入れない中小企業経営者が多いのでしょうか?

時間軸の違い

雨は「明日」という具体的な時間軸ですが、地震は「30年以内」という曖昧な時間軸です。人間は具体的で近い未来には対応しやすく、抽象的で遠い未来には対応しにくい性質があります。

影響の違い

雨に濡れる不快感は想像しやすいですが、事業が停止する損失の大きさは想像しにくいものです。また、傘を買うコストと比べ、BCP策定にはより多くの時間とコストがかかります。

災害は「いつ起こるか」だけの問題

重要なことは、大規模災害の発生は「起こるかもしれない」ではなく「確実に起こる」ということです。問題は「いつ起こるか」だけなのです。

社会保険労務士として多くの企業を見てきた経験から言えるのは、災害への備えを「コスト」と捉える企業は脆弱で、「投資」と捉える企業は強靭だということです。

BCPは「作って終わり」ではない

BCP策定でよくある誤解が「計画を作れば安心」というものです。しかし、真のBCPは動的なものでなければなりません。

継続的な見直しプロセス

  1. 災害事例の分析:実際に発生した災害を分析し、自社の計画で対応可能かシミュレーション
  2. 脆弱性の特定:想定していなかった問題点や改善点の洗い出し
  3. 計画の更新:新たな知見を基にした計画の修正・更新
  4. 訓練の実施:机上の計画を実際に動かしてみる検証

想定外への対応力

完璧な計画というものは存在しません。重要なのは、想定外の事態が発生した時に柔軟に対応できる組織力です。

 

goukakuget.hatenadiary.com

 

自律した組織が生む真の危機対応力

実際に災害が発生した時、計画を実行するのは「人」です。そして会社という組織では、人は組織のルールに従って行動します。

自律的な判断力の重要性

  • 状況判断力:刻々と変わる状況を的確に把握し、優先順位を決める力
  • 意思決定力:不完全な情報の中でも必要な判断を下す力
  • 実行力:決めたことを確実に実行に移す力
  • 連携力:組織内外と効果的に連携する力

組織風土の醸成

自律的な行動ができる人材を育成するには、日常的な組織風土が重要です

  • 失敗を恐れず挑戦できる環境
  • 現場の声が経営層に届く仕組み
  • 継続的な学習を支援する体制
  • 権限委譲による責任感の醸成

社会保険労務士として伝えたい企業の責任

企業には従業員とその家族、取引先、地域社会に対する責任があります。災害時の対応は、その責任を果たすための最低限の準備です。

従業員への責任

  • 安全な職場環境の提供
  • 災害時の安否確認体制
  • 雇用継続のための事業継続

取引先への責任

  • サプライチェーンの維持
  • 契約履行への最大限の努力
  • 代替手段の準備

地域社会への責任

  • 地域経済の安定維持
  • 雇用の確保
  • 復旧・復興への貢献

 

 

今日から始める実践的BCP

Phase 1:現状把握(1週間)

  1. 自社の立地リスクの確認(ハザードマップの確認)
  2. 重要業務の洗い出し
  3. 現在の備蓄状況の確認

Phase 2:基本計画策定(1ヶ月)

  1. 緊急連絡体制の構築
  2. 重要データのバックアップ体制
  3. 代替拠点の検討

Phase 3:詳細計画と訓練(3ヶ月)

  1. 詳細な行動マニュアルの作成
  2. 定期的な避難訓練の実施
  3. BCPの見直しサイクルの確立

エピローグ:専門家からの提言

今回の東京の大雨で改めて実感したのは、災害は本当にいつ、どこで起こるかわからないということです。「備えあれば憂いなし」は古い格言ですが、現代の企業経営においてこれほど重要な言葉はありません。

明日の雨に傘を持参するように、将来確実に起こる災害に対してもしっかりと準備をする。それが、企業を、従業員を、そして地域社会を守る経営者としての責任なのです。

想定外を想定内にする。それがBCPの真の目的であり、持続可能な企業経営の基盤となるのです。

☆御礼☆

最後までお読み頂きありがとうございます。

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